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広島高等裁判所 昭和42年(行コ)6号 判決 1968年6月27日

西宮市丸橋町一一三の二

控訴人(附帯被控訴人)

森行直

右訴訟代理人弁護士

秦野楠雄

尾道市東御所町

被控訴人(附帯控訴人)

尾道税務署長

平方節男

右指定代理人

山田二郎

堀田泰宏

吉富正輝

常本一三

広光喜久蔵

右当事者間の審査決定取消請求控訴、同附帯控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

附帯控訴に基き、原判決中附帯控訴人(被控訴人)の敗訴部分を取消す。

附帯被控訴人(控訴人)の請求を棄却する。

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という。)代理人は本件控訴につき、「原判決を次のとおり変更する。被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という。)が控訴人に対し昭和三七年三月二七日附をもつてした、控訴人の昭和三五年分所得税の総所得金額を金一一八七万五五五一円とする更正処分(但し審査決定(昭和三八年三月一八日附広協第二一四号による広島国税局長の裁決)によつて一部取消され所得金額九二三万五六九五円とされた)のうち、控訴人の確定申告による金一六一万一八五一円を超える部分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに附帯控訴につき、これを棄却するとの判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の関係は、次のとおり訂正附加する外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決添付有価証券取引内容一覧表損益欄に次の数字を挿入して訂正する。取引番号1の損益として四四九、九九〇を、同3の損益として七八六、八七五を、同7の損益として五三四、二七三を、同9の損益として二五二、二三二を、同12の損益として一九五、七〇〇を、同14の損益として△四〇、一九三を、同15の損益として二四四、二一八を、同16の損益として△一五、四六二を、同18の損益として九、〇五〇を、同20の損益として△二九、八五〇を、同22の損益として一九五、九八〇を、同23の損益として二八三、九一九を、同25の損益として△一四六、二五二を各挿入する。

二  立証として、控訴代理人は甲第一三号証を提出し、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第一六ないし第二三号証の成立をすべて認め、被控訴代理人は乙第一六ないし第二三号証を提出し、当審証人高木喜夫の証言を援用し、甲第一三号証の成立を認めた。

理由

当裁判所は、控訴人の昭和三五年度総所得金額は被控訴人の主張するとおり九二三万五六九五円であると認定するものであり、その理由は、原判決三枚目表五行より同四枚目裏六行までを(一)のとおり訂正し、同六枚目表五行末尾に(二)を追加し、同八枚目表一行末尾に(三)を追加し、同八枚目表一二行の後に一項目として(四)を追加する外、原判決が理由として説示するところ(原判決二枚目裏一二行より三枚目表四行までおよび同四枚目裏七行より八枚目表一二行まで。有価証券取引内容一覧表を含む。)と同様であるから、これを引用する。

(一)  譲渡所得金二八万二九五〇円

控訴人が昭和三四年一〇月二四日訴外高木喜夫より、尾道市吉和町二七番の一六八宅地六二坪を地上建物付で譲渡を受け、昭和三五年七月五日右地上建物を取壊して、土地だけを訴外池田義輝に一三五万円で譲渡したことは当事者間に争いがない。

被控訴人は、控訴人においては高木より右土地建物を六〇万円で取得したと主張し、控訴人は、その取得価額は一二〇万円であると主張する。

成立に争いのない乙第一、第一六、第二一号証、原審および当審証人高木喜夫の証言を総合すると、高木は昭和三四年頃、新たに製材事業を始めるべく計画したが、その資金に利用する積りであつた他人に融資中の五〇万円が、回収不能に陥いり、資金の融通に苦慮することになつたこと、しかも、当時偶々息子が結婚することになつており、その費用も捻出しなければならなかつたこと、そこで意を決して右土地建物を他に売却することとし、控訴人に対し、土地建物を併せて一二〇万円で買つてくれと交渉したこと、控訴人は、高木が金繰りに困つており、右土地建物の売却方を焦つていることを知つており、したがつて、「六〇万円に負けるなら買おう。自分としては土地だけが欲しいのであるから、六〇万円が相当である。家は取りこわして持つて行つてもよい位だ。」と強気に出たこと、高木は余りにも安いので、訴外田中勝哉に対し、せめて七〇万円位でも買つてくれぬかと頼んだが、同人もこれを承諾しないため、やむなく、控訴人の言い値どおり右土地建物を六〇万円で控訴人に売つたことが認められる。右認定に反する原審証人藤井利一の証言、原審および当審における控訴人本人尋問の結果は信用できないし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、当時施行中の所得税法第九条に照して譲渡所得を計算する。前記の如く、控訴人は右土地のみを一三五万円で譲渡したものであるところ、その取得価額六〇万円(控訴人は右土地建物を併せて六〇万円で取得したものであるが、一応土地のみの価額とみる)および弁論の全趣旨によりこれを認め得る登録税三万四一〇〇円を控除し、これから更に、右法条所定の特別控除額一五万円を控除した金額に一〇の五を乗じると、二八万二九五〇円という数値が得られるが、これがその譲渡所得である。

(二)  かりに、控訴人が技術指導料の名によつて、「特許を受ける権利」(特許法第三三条第三四条参照)の使用料を得たものとみるべきものとしても、控訴人主張の費用は、いわゆる資本的支出として当時では「特許を受ける権利」であり、やがては特許権そのものである権利の取得価格を構成するものであるから、必要経費に該当しないのみならず、「特許を受ける権利」は未完成なる権利であつて、未だ減価償却をなすべき対象とならない。

(三)  原判決添付有価証券取引内容一覧表取引番号4567の「花王」新株単価が一四五円である計算関係は別表Aのとおりであり、同取引番号9の「日立」新株および旧株単価が一九七円である計算関係は別表Bのとおりであり、同取引番号1213の「旭硝子」新株および旧株単価が二二八円である計算関係は別表Cのとおりであり、同取引番号14の「日石」新株および旧株単価が一二七円である計算関係は別表Dのとおりであり、同取引番号15の「三菱電機」新株および旧株単価が一七二円である計算関係は別表Eのとおりである。

(四)  成立に争いのない甲第一三号証(証券会社の店員に対し、証券の売買を一括して委任した故を以て、数多の取引が一個の取引となるものではない。)、当審における控訴人本人尋問の結果によつても、以上訂正にかかる原判決の認定を左右しないし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の次第で、昭和三五年度における控訴人の総所得金額が九二三万五六九五円であるとする本件更正処分(審査決定による一部取消しの結果)は正当であり、原判決中、八九五万二七四五円を超える部分につき、これが取消しをなした部分は不当であり、附帯控訴に基き取消し請求を棄却すべく、また、原判決中控訴人敗訴部分の取消しを求める本件控訴は理由がない。

よつて、民訴法第三八四条第三八六条第九六条第八九条に則り主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 柚木淳 裁判官 竹村寿 裁判官浜田治は転任につき署名捺印ができない。裁判長裁判官 柚木淳)

A「花王」新株単価計算表(取引番号4.5.6.7」

<省略>

(8,251,000+71,150)÷33,500=248.42 旧株旧単価

(248.42+40)÷2=144.21=145 新株単価

B 「日立」新株および旧株単価計算表(取引番号6)

<省略>

(1,034,800+11,560)÷4.200=249.13 旧株旧単価

<省略> 新株および旧株新単価

C 「旭硝子」新株および旧株単価計算表(取引番号12.13)

旧株買入月日 株数 金額 買手数料

34.10.31 2,000 730,000 6,400

35.2.18 8,000 2,680,000 19,200

計 10,000 3,410,000 25,600

(3,410,000+25,600)÷10,000=343.56 旧株旧単価

(343.56+35×0.6)÷1.6=227.85=228 新株および旧株新単価

D 「日石」新株および旧株単価計算表(取引番号14)

旧株買入月日 株数 金額 買手数料

35.1.4 10,000 2,160,000 18,000

(2,160,000+18,000)÷10,000=217.80 旧株旧単価

(217.80+50×1.2)÷22=126.27=127 新株および旧株新単価

E 「三菱電機」新株および旧株単価計算表(取引番号15)

旧株買入月日 株数 金額 買手数料

35.5.31 10,000 2,300,000 18,000

(2,300,000+18,000)÷10,000=231.80 旧株旧単価

(231.80÷50×0.5)÷1.5=171.02=172 新株および旧株新単価

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